患者自ら「やってみよう」という気持ちになり、自発的に動いてくれればリハビリテーションとして、これほど理想的な形はないでしょう。
しかし入院患者全てが、そのような気持ちになるわけではなく、入院中にどのような介入をすれば良いか、在宅にどのような形で繋げば良いか、悩む療法士は多いかと思います。
そこで今回は、私の理学療法士と介護支援専門員の経験、学びの中から動機付けに役立つ知識をお伝えしていきます。
この記事はこのような方にオススメ!
担当患者がいつもやる気がなくて、手を焼いている人
動機付けのことを、あまり考えてこなかった人
回復期で受動的にリハを受けて、在宅帰ったら動けなくなるのでは?と考えたことがある人
『やる気がない』に潜む療法士の影響
まず知っておきたいことは、人は強い説得を受けると逆らいたくなる心理がある。ということです。
療法士「Aさん、起きないと体力がもっと落ちちゃうますよ。」
Aさん「分かりました(そんなこと言ったて、無理だよ)。」
いくら療法士が、患者のことを思って必死に説明したとしても、体が重たいあるいは痛い場合には分かったと返事しても、心の中では無理だよと思っている人もいます。
動機付けのためには、患者自身の「変わろう」という気持ちを高めていくための、協働的な働きかけが重要となります。
正論をただ述べるだけでは、聞く耳を持ってくれないだけでなく、反抗心をもたらす可能性があるのです。
動機付けの前に患者が抱く両価性を理解
両価性というのは「相反する気持ちを同時に抱く」ということです。
患者とコミュニケーションを一つひとつ注意して取っていくと、「〇〇したいけど、△△なんだよね」という心理があることに気づくことができます。
例えば「早く退院したいけど、まだ無理そうだね」などという訴えは、臨床現場でよく聞かれる発言かと思います。
このような発言が患者から聞かれた場合、前向きに働きかけるヒントが数多く潜んでいます。
動機付けにおいては、患者のこのような両価性を解消し、変わりたい方の気持ちを高めていくことがポイントとなります。
動機付けに必要な両価性の崩し方
では、どのように両価性を解消していけば良いでしょうか。
両価性の心理というのは、天秤のように力比べをしている状態です。
相反する気持ちが拮抗している状態では、天秤はどちらにも動かないですが、私たち療法士の関わりでこのバランスを崩すことができます。
患者が何もしない理由を「やる気がないから」ではなく、「相反する気持ちが拮抗しているから」と捉えることで、両価性を解消をする糸口が見えやすくなります。
両価性を解消するテクニックに、あるコミュニケーション方法があります。
動機付けのためのトーク力を磨く!
両価性の心理に対するトークについて、ここでは便宜上「チェンジトーク」と「ステイトーク」と呼びます。
チェンジトーク:「変わりたい」という気持ちを表す発言
ステイトーク:「今のままでいい」という気持ちを表す表現
チェンジトークを増やすと「やりたい気持ち」が強くなっていき、一方でステイトークを増やすと「やりたくない気持ち」が強くなっていくと考えています。

例えば、先ほど載せた図を参考にトークを展開していきます。
例)
Aさん「早く退院したいけど、動くと痛いからやりたくない。」
チェンジトーク:早く退院したい
ステイトーク:動くと痛いからやりたくない
療法士「早く退院したいんですね。それはどうしてですか?」
→「早く退院したい」に対してのトークを増やす!
Aさん「だってこんな病院いつまでもいたくないじゃない!?畑も手入れしてやらないといけんから。」
→「畑の手入れ」に対してのトークを増やす!
療法士「畑の手入れですか。それはすぐにやりたいでしょうから、早く退院したいですよね。」
→以降、畑の話題から「どのような作物を育てていたのか」「どのような動きが必要になるのか」など、徐々に具体的な話題を提供し「やりたい気持ち」が強まるよう関わっていく。
これはあくまでも一例ですが、チェンジトークとステイトークの違いを理解しておくと、キーワードにすぐ気づくことができ、それに即した話題を提供することができるようになります。
チェンジトークと思って話を進めていったけれど、患者が思うように前向きな気持ちにならないかもしれません。
そのような時、その患者にはもっと別に強い思いがある可能性があります。
おそらく皆さんは日々の臨床で問題点抽出のために、様々な評価をおこなっているかと思います。
その評価の中の一つに、患者がどのような相反する気持ちを抱いているのかもみていくようにすると、またアプローチの幅が広がっていくのではないでしょうか。
最後まで、ご覧いただきありがとうございました。