介護保険制度という存在を知っていても、介護保険制度が何を意図して制定されたものなのか知らないと、どのように役立つか分からないものです。
介護保険制度には「理念」があります。
理念は建物で言う「柱・軸」の部分になりますので、理念が定まっていないとブレやすい考え方になってしまいます。
考えがブレたものでは、市場価値がなく徐々に衰退してしまうため、介護保険制度においては明確な理念があり、その下で働く者は理念を理解する必要があります。
今回はその理念について、紹介していきます。
理念1.利用者本位
介護サービスを提供する側として、自分たちの価値観を押しつけてはいけないということです。
この理念の解釈で間違えやすい点として「利用者の言う通りにすればいい」という考え方があります。
確かに利用者本位を考える上で、言う通りにすることも大切です。しかし介護保険制度における利用者本位では「生活の質(QOL)」「尊厳の保持」という視点が根底あります。
例えば何日も入浴をせず、清潔を保てない高齢者がいたとします。本人はお風呂を嫌い、入浴サービスを利用することを拒んでいます。
ここで「利用者の言う通りにすればいい」という考えの則り、「本人が入りたくないなら、入らなくて良い」と考えてしまうと、入浴しないことで起こる「皮膚疾患」「感染症リスク」「異臭による周りへの影響」などを見落とす可能性があります。
お風呂に入らないという選択が、QOLや尊厳の保持の視点として適した選択なのか、その状態を続けることで悪化することはないか、あらゆる可能性を想定しつつ利用者の意向に沿った形で対応方法を提案する必要があります。
この利用者本位という言葉は、解釈する範囲が広すぎて少し分かりづらいかもしれません。
そこで私はこの言葉を「利用者が大事にしていることを、私たちは大切にする」と、捉えるようにしています。
利用者が何を大事にしているから、お風呂に入りたくないと言うのか?ゆっくりした時間を過ごしたいのか?寒くなることが嫌なのか?人に見られることが嫌なのか?
理念2.利用者の選択の尊重
利用者本位と重なる部分はありますが、利用者自身が選んだことを大切にするということです。
ここで注意する点としては、利用者が直感で選んだことを良しとするわけではないことです。
例えば急に「右の道と、左の道のどちらへ行きますか?」なんて質問されても、答えようがないですよね。
左右の道はそれぞれどのような道なのか、どのような所に着くのかということは事前に知っておきたいものです。
選択した意思は尊重すべきですが、選択肢それぞれに専門職である私たちが情報を伝えていくことが非常に重要となります。
特にメリット、デメリットに関しては、専門職でなければ気づけない部分があります。どちらの道に進んだとしてもメリットやデメリットがあることを、十分に説明した上で選択してもらうことが大切です。
また、私たちが関わることで、どちらかの道に誘導していないか、常に中立の立場で話をするという意識も重要です。
理念3.自立支援
介護保険制度において、この自立支援という理念が一番重要であると、私自身は考えています。
介護という言葉を聞くと「相手の代わりにおこなうこと」「お世話をしてあげること」というイメージになりやすいですが、実際には自立支援をおこなっています。
利用者の持つ能力に応じて不足している部分は手伝うが、それ以外は自分でできる方法を検討し、自分でおこなってもらう。
この考え方があるのとないのとでは、関わり方が全く変わってきます。
ただ、自立には様々な意味合いがあります。
身体的な自立、経済的な自立、精神的・人格的自立と、見るべき視点は多岐に渡りますが、介護保険制度では特に「精神的・人格的自立」が重要とされています。
例えば、体は自由に動けないけど、ご飯は家族に作ってもらい、欲しいものは家族に頼んで買ってきてもらっている。このようはケースは身体的や経済的に自立はしていないものの、自分の意思でやりたいことを決めることができているため、精神的には自立していると言えるでしょう。
身体面や経済面で自立を考えると、際限がありません。この両者にばかり着目していると、自立支援の方向性を見失ってしまいます。
「自分がやりたいことを、自分で決めることができる」
ここに対して、私たちは何を支援できるのかと考えていけば良いでしょう。
まとめ
介護保険制度には
1.利用者本位
2.利用者の選択の損傷
3.自立支援
この3つの基本理念があります。
介護保険サービスには様々なものがありますが、全てこの理念に則りおこなわれていますので、基本となるこの3つの理念を知っておくことが大切です。